超幻日記

素粒子、量子論、宇宙論のことを辺境にいる一人の視点から改めて眺めてみます。単なる勉強帳になるかも。。

繰り込み群とε展開

G.WILSONとJ.KOGUTの「THE RENORMALIZATION GROUP AND THE ε-EXPANSION」(https://pdfs.semanticscholar.org/e372/a0dc3053d0630788bc778dbffd6b4ea5d34b.pdf)
を少し訳してみた。

イントロダクション

本稿の目的は、近年の繰り込み群の研究とその臨界現象と場の理論への応用を議論することです。これらのアイデアは、4-ε空間(場の理論の場合、時空の次元が4-ε)の臨界現象と場の理論で定義し、eのべき乗で展開するという最近の他のアイデアを用いて説明されます。本稿で強調したいことは臨界現象に関してです。特殊な結果ではなく基本的なアイデアを強調するつもりです。


内容は不完全です。このレビューは現在の文献に代わるものではありません。最初の節は一般的で哲学的なものです。後続の節のほとんどはより実用的で、計算の具体的な問題に関することになっています。この節に関連して繰り込み群とε展開についての最近の文献リストがあります。この論文で議論しているトピックの正確な目録に関してはそれらの文献をお読み下さい。

物理における繰り込み群とコヒーレント問題

この節では繰り込み群の哲学的な議論を行います。(このイントロダクションはこの論文の残りを学んだ後に再読すべきです。)最初の節の最後に向けて、臨界現象のレビューを開始します。


繰り込み群は物理の最も困難な問題の幾つかに対処する方法の一つです。そこには相対論的場の理論、臨界現象、近藤効果([1]-[7])等が含まれます。これらは本質的に大きな自由度をともなうことによって特徴づけられています。


物理で扱う問題のほとんどは非常に大きな自由度を含んでいます。例として、マクロスコピックな量での結晶、液体、気体は10の23乗個以上の電子を含み、各電子の座標が自由度になります。


対照的に、殆どの理論的方法は一つの独立変数すなわち一つの自由度のみを持つときにのみうまくいきます。例えば1電子の波動関数ψ(x,y,z)についてのシュレディンガー方程式を考えましょう。シュレディンガー方程式において変数分離ができる場合、ψを計算することは非常に簡単です。(例えば球面座標ψ=ψ1(r)ψ2(θ)ψ3(Φ)。)正当化されているかに関わらず並外れた単純化なしに10^23個の電子の波動関数を計算することは明らかに望みがありません。


通常の環境の元では10^23程の自由度は大幅に減らすことができる可能性があります。


観測量の示量的、示強的特徴(エネルギーは示量的、密度は示強的)はマクロスコピックな系の性質を再構成することを許します。従って、たった1000個のみの原子による液体は、おそらく、10^23個の原子を持つ(同一の温度と圧力を持つ)液体と同じ単位体積と密度あたりほぼ同じのエネルギーをもつことになるでしょう。


定性的な性質を変えることなく気体のサイズをどれだけ減らすことができるのでしょうか。定性的な性質を変えることなく到達できる最小のサイズは相関長と呼ばれます。相関長ξは系の状態に依存します。気体に対してはξは圧力と温度に依存します。都合の良い状況においてξは原子間隔の1,2倍のみになります。ξが小さい時は、系の性質を計算する様々な手法が存在します。(ビリアル展開、摂動展開、ハートリー・フォック手法等。)これらの手法は様々な近似を含みますが皆一つの共通点があります。それは、バルクの物質の性質は原子の小さなクラスターの性質と関係付けることができるという仮定をおいていることです。3つの原子からなるクラスターですら並外れた単純化なしに解くには自由度が多すぎるという理由から、これらの手法をさらなる仮定を含みます。


特別なケースとして、相関長が原子間隔より非常に大きいときがあります。相転移が始まることを示す臨界点が主要な例です。液体-気体相転移強磁性相転移、合金の秩序-無秩序相転移等。すべての臨界点は熱力学的変数の特別な値を持ちます。(液体-気体臨界点は温度Tc,圧力Pcの臨界値を持ちます。)正確には、相関長は臨界点で無限大で、臨界点の近くで大きな値を持ちます。


相関長の特定のサイズに対応する領域において、非常に多くの自由度を持つことで特徴づけられるような問題の一群があります。臨界現象もその一つです。"非常に多くの”とは3や4と言った数ではなく、無限ではないしても数百や数百万を意味します。この一群の問題において臨界現象以外の問題として近藤問題(金属の磁性不純物)、大きな分子の結合、相対論的量子場の主題のすべてがあります。


量子場φ(x)において、各点xでの場φは分離した自由度です。よって有限なサイズのどの領域にも無限個の自由度が含まれます。量子場の相関長は通常もっとも軽い質量の粒子のコンプトン波長です。
量子電磁気学の場合、実際の相関長として働くのは光子のコンプトン波長(∞)よりむしろ電子のコンプトン波長(10^-11cm)です。比較的かんたんに10^-11cm以上のサイズの箱の中の量子電磁気学を全空間における量子電磁気学と関係づけることができます。10^-11cmよりずっと小さい箱は電子と光子の相互作用の大きな歪みを引き起こします。


上記で並べた問題はみな非妥協的、かたくなな問題として知られています。分子の結合は今日では1932年よりは非常によく理解されています。70年代末に、臨界現象における突発的な進歩がありました。量子電磁気学を「計算」することにはセンセーショナルな進展はありましたが、それを理解することについての進展は非常に限られていました。そして、強い相互作用は計算することも理解することもできませんでした。近藤問題は最近研究されたばかりで、解決に近い可能性があります([2,3,7])。


量子場における繰り込み統計力学における臨界現象の研究は両方とも一つの相関長をもつ多自由度の系の振る舞いは一つの相関長を持つ少数自由度のみを持つ系とは質的に異なることを示唆しています。私達が興味のある系は通常、ハミルトニアンで定義されており、通常、系の振る舞いは主にハミルトニアンで表現される相互作用のタイプと結合定数の強さで主に決定されます。これは相関長が小さい時は確かです。しかし、ここで議論する多くの自由度が協調的に振る舞うような問題においては、系の振る舞いは主に協調的な振る舞いが存在することによって、加えてそれら自身の自由度の自然性によって決定されます。相互作用ハミルトニアンは二次的な役割しか持ちません。したがって、臨界現象においては、普遍性という概念が生まれています。すなわち、普遍性においてはすべての相互作用ハミルトニアンが同一の臨界的振る舞いを示します。普遍性のアイデアは"対応状態の法則(law of corresponding states)"において生まれました。これはすべての流体と気体は長さとエネルギースケールのくりこみをのぞいて同一の状態方程式を持つという仮定です。この法則の比較的最近の文献はGuggenheim[8]を参照下さい。最近、普遍性のアイデアはより一般的に任意の相互作用をもつ様々な系での臨界の振る舞いを関係づけるように定式化されました。例としてKandanoff[9]を参照下さい。普遍性は以下でさらにそして12節でも議論することになります。